映画のように美しい映像と複雑なストーリーに魅せられ、ドラマ『長安二十四時』の原作《长安十二时辰/長安十二時辰》(翻訳がまだ出てないので原書)に挑戦中のらーじゃおです。現在、上巻を読み終えました。
読んでみて驚くのは「ドラマはかなりアレンジされている」という点です。そこが面白く、いい意味で裏切られます。
この記事ではドラマと原作の違いを紹介しますが、ネタバレを控えたいので上巻を読んだ時点での違いに限定したいと思います。
「中国ドラマの原作を中国語で読みたいけど、どの本がいいかわからない!」と悩んでいる方にも《长安十二时辰/長安十二時辰》はおすすめ作品なので、その理由も紹介します。
※本文では原作小説を《长安十二时辰》と表記します。
小説《长安十二时辰》とドラマ『長安二十四時』
小説《长安十二时辰》をドラマ化したものが『長安二十四時』です。作者の馬伯庸(マー・ボーヨン)さんは、原作が多数ドラマ映画化されている人気作家です。
小説《长安十二时辰》とは
著者:马伯庸/馬伯庸
出版社:湖南文芸出版社
出版年月:2017年1月
‶文学鬼才”と呼ばれる馬伯庸(マー・ボーヨン)さんのプロフィールを見てみましょう。
- 1980年生まれ 43歳 内モンゴル自治区赤峰出身 漢族
- 2005年 《她死在QQ上》《风起陇西》で注目される
- 映像化された作品 《风起陇西》《三国机密》《长安十二时辰》《显微镜下的大明》《古董局中局》《洛阳》《敦煌英雄》《长安的荔枝》《两京十五日》
人気作品ばかりだ!ちなみに《洛阳》は『風起洛陽』のことだよ。
ドラマ『長安二十四時』とは
人気若手俳優の易烊千玺(イー・ヤンチェンシー)さんとイケオジ俳優・雷佳音(レイ・ジャーイン)さんの骨太ドラマ『長安二十四時』。日本では2020年にwowowで放送されて以来、BSや地上波でのテレビ放送が待たれる好作品の1つです。
※2024.1現在の情報です。詳細は上記サイトでご確認ください。
原作はドラマと違う
『長安二十四時』は原作を忠実にドラマ化している作品ではありません。先に本を読んでいたのなら「イメージと違う」と不満を感じるかもしれませんが、ドラマが先なので「逆におもしろい」と思いました。
それではドラマと原作の違いを詳しく紹介します。
ドラマと原作の違い◇登場人物
原書を読みだして最初に驚くのは、登場人物の名前の違いです。
名前が違う人
中国語の発音は似ていますが、漢字に慣れている日本人にとっては別人のようですね。
ドラマ | 発音 | 原作 | 発音 | 役柄 |
李必 | Lǐ Bì | 李泌 | Lǐ Bì | 靖安司の司丞 |
林九郎 | Lín jiǔ láng | 李林甫 | Lǐ Lín fǔ | 李必のライバル |
何執正 | Hé Zhí zhèng | 賀知章 | Hè Zhī zhāng | 李必の師匠 靖安司の主理 |
何孚 | Hé Fú | 賀東 | Hè Dōng | 何執正の養子 |
王宗汜 | Wáng Zōng sì | 王忠嗣 | Wáng Zhōng sì | 王韞秀の父 |
程参 | Chéng Shēn | 岑参 | Cén Shēn | 仕官の為に長安に来た書生 |
ドラマだけの登場人物
ドラマで印象的な人物が、実は原作には出てきません。
床屋
『大明皇妃』で趙王を演じた欒元暉(ルワン・ユエンフイ)さんが演じる床屋。
曹破延がヒゲをそってもらうために入った西市の床屋。自分の娘を思い出しながら「今夜はお父さんと家にいなさい」と曹破延が床屋の娘に語りかけるシーンは印象的です。ドラマのこのエピソードには曹破延の人間性が描かれ、単なるテロリストとは一線を画しています。
原作に床屋は登場しませんが、曹破延が娘のネックスを大切にしている姿は描かれています。
郭利仕
聖人(皇帝)の覚えめでたき太監・郭利仕は何執正と同じように李必をかばい、支える存在です。ドラマの中では、右驍衛に囚われた張小敬・檀棋・姚汝能を救うために一肌脱いでくれました。
しかし、原作では郭利仕は登場しません。李必が甘守誠将軍と賭けをして、賭けに勝ったため張小敬たちは無事に脱出することができるのです。(どんな賭けか知りたい方は本を読んでくださいね!)
ドラマと原作◇設定が違うBEST5
それでは、らーじゃおが驚いたドラマと原作の違いをランキング形式で紹介します。
第5位:張小敬と火師(守捉郎)
5位なので驚きはひかえめです(^^)
張小敬
張小敬のキャラクターはドラマも原作も同じですが、外見が少し違います。
ドラマ:雷佳音さん演じる張小敬は左頬に傷あとがありますね。
原作:左目には大きな刀傷があり、眼球はない…と書かれています。
火師(守捉郎)
火師については、ドラマのネタバレ要素が強いので、読みたい方だけどうぞ。
【ドラマ】大秦寺での暗殺者を追って平康坊まで来た張小敬の前に現れたのは、かつての第八団の盟友・丁老三でした。丁は張小敬を守るため仲間を亡き者にし、張小敬を逃がそうとしますが何者かに命を奪われてしまいます。
【原作】火師と張小敬との個人的なつながりは一切書かれていません。丁老三が火師というのはドラマだけの設定のようです。原作では”守捉郎”という組織の政治的な位置が丁寧に書かれており、ドラマと違い興味深いです。
第4位:マガル(麻格児)
ドラマ:曹破延の仲間であるマガル。修政坊では魚腸から聞染をかばったりと、ジェントルマンだったのですが…。
原作:ドラマのマガルは正反対です。性欲強すぎて、ドン引き(;^_^A
第3位:聞染
ドラマ:第八団の盟友・聞無忌の娘で、張小敬が命がけで守っています。張小敬が止めようとしているテロリストとつながりがある謎の存在。
原作:張小敬が守り、張小敬を”恩公“と呼んで慕うという設定はドラマと同じです。しかし、上巻ではテロの一味という要素は一切なく、龍波との接点もありません。隠された秘密が下巻で暴かれるのか?それともドラマだけの脚色なのか? 程参や姚汝能との展開も気になるところです。
第2位:姚汝能
ドラマ:名家の子弟で、ちょっと屈折した性格の姚汝能。父が宰相の地位から失脚したせいで、自分の昇進が絶たれていると恨んでいるのでしょうか?父をひきあいに出されるとキレやすい面があります。前途は李必に及ばす、実行力も張小敬に負け気味で、やけを起こさないか心配なキャラクター。
原作:京畿岐州の一族で、長安に来てまだ3ヶ月と8日の田舎者感がただよう設定です。代々、捕盗吏を職とする家柄の姚汝能にとって、万年県の不良帥を8年もつとめた張小敬はアイドルのような存在。ドラマ版の張小敬を見下している感じとは、大きく設定が異なります。
2024.1月現在の情報です。詳細は上記サイトでご確認ください。
第1位:魚腸
上巻でなかなか魚腸が登場しないので「どーゆーこと?」とキレ気味に読んでいたら、設定が全く違うので驚いてしまいました。
ドラマ:男性顔負けの破壊力をもつ美人アサシン。龍波への恋心がせつない魚腸は、ドラマ版になくてはならないキャラクターです。李媛(リー・ユエン)さんの近未来的な美しさはゲームの世界から飛び出してきたかのよう。
原作:ドラマではかなり早い段階で登場し、龍波に秋波を送り、靖安司の邪魔をしまくっている魚腸ですが、意外にも原作で登場するのは上巻の最後の方です。その驚きの描写がこちら。読むまでのお楽しみにしたい方は開かないでください。ともかくビジュアルは全く違います。
原作では魚腸は男性です。しかも、均整のとれた体格で老け顔だというのです。個人的にショック。龍波への恋心など書かれておらず、張小敬への恨みや敵対心がネバネバした感じで表現されています。
这人脸上还是那副老人模样,一身贴身麻衣遮不住匀称健壮的身材。他趴在渔网里,如同一条上岸很久的鱼,一动不动。
出典:长安十二时辰 上卷 p323
圏外:怪しい人物
ドラマ版では重要人物だったこの2人ですが、原作の上巻で活躍しないところが、余計に怪しい!?
徐賓
ドラマ版:大案牘術を編み出した奇才という点が、初めから強調されていた徐賓。データに固執する姿に若干の狂気を感じる時もありました。
原作:張小敬の友人であることを隠さず、テロを阻止する適任者に張小敬を推薦し、自ら迎えに行っています。上巻終了の時点では、裏表のある人物には見えません。大案牘術という言葉も最初の方にサラッと出てきただけなので、重要人物には思えないですね。
何孚
ドラマ:何執正の養子として、靖安司に同行したりと度々すがたを見せていた何孚。頭がおかしいふりをして、密かに謀をすすめる役どころでした。
原作:上巻では”賀東(何孚のこと)という養子がいる”と書かれているだけでした。下巻で活躍するのでしょうか?まさか、このまま出番なし?
中国語学習用におすすめする理由
数多くの中国ドラマの原作の中から《长安十二时辰》をおすすめする理由を2つ説明します。
読みやすい◇中国語中級者の見地から
- ドラマを見ているので、登場人物を把握しやすい
- 成語や詩は少なく、古典の知識がなくても取りあえず可
- 大筋がわかっているので、わからない単語をとばして読める
ドラマが難しいため、視聴後の小説《长安十二时辰》は本当に読みやすいです。
私の場合、名詞と戦闘シーンの動詞に知らない言葉が多かったのですが、ドラマの場面を思い出して辞書はひかずに読み進めました。街を描写する言葉も多いけれど、漢字を見てなんとなくわかる(日本人ならではの感覚でしょうか)と思います。
調べだすと話が進まないので、何度も出てくる単語だけ辞書で調べたよ
最後まで読める
1冊の外国語の本を読み通すことは本当に大変なことです。
わからない単語や文法に執着しなければ、《长安十二时辰》は途中で挫折せずに最後まで読める中国語の本です。
ドラマを先に見ている事が前提だけどね!
“ドラマを補う”という意味でも楽しい小説です。
守捉郎、姚汝能の人柄、何執正の住居・楽游原の位置、火師の隠れ家での檀棋の機転、崔器が最後に叫んだのは「隴山崔器!」であったことetc. ドラマで描き切れなかった細かい事が書かれているので、読んでいて飽きません。
読破した時の自信は、学習を続ける大きな原動力になります。
『長安二十四時』ドラマと原作の違い◇まとめ
ドラマ『長安二十四時』と原作《长安十二时辰》の違い、たくさんありましたね。
下巻には、さらなる違いや伏線回収が待っているような気がします。
《长安十二时辰》という小説が思いのほか面白く、紹介したくなって記事を書きました。ドラマと違うところが、ワクワクする本です。機会があれば、手にとってみてくださいね。
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