2021年にBS12で放送され大ヒットした中国ドラマ・君、花海棠の紅にあらず。
「瓔珞<エイラク>のプロデューサー・于正さんが手がけたドラマ」と話題になりましたね。大ヒットしたのはドラマの内容がしっかりしていて、心を打つ物語だったからだと私は思っています。
この記事では「このドラマを中国語でみたい」「もっと京劇のことが知りたい」というあなたのために、君、花海棠の紅にあらずでつかわれている京劇に関する中国語の単語を紹介していきます。
日本でも芸事の用語は日常のものとは少し違いますよね。京劇でも同じように「舞台衣装のことを‶衣裳”以外に‶行头”と呼んだりする」というようなことがあります。
そうした「知っているとチョット鼻が高い」言葉から量詞にいたるまで、中国語中級者の目線で京劇に関する単語を選びました。一緒に中国語を勉強しませんか?
予習をしてからドラマを見ると、聞きとれる部分が増えると思います。
気づいた範囲で何話でつかわれていたか書いておきますね。
発音がわかるようにピンインも表記しました。
あなたの中国語の勉強のお役に立てればうれしいです。
君、花海棠の紅にあらずの頻出単語
ここで紹介する単語はドラマの中でひんぱんに使われています。
- 听戏 tīng xì:芝居をみる(京劇は唄をきくので听)
- 班主 bān zhǔ:座長(水雲楼のメンバーは商細蕊を班主と呼んでいる)
- 老板 lǎo bǎn:京劇などの役者や座長の敬称(程鳳台も「商老板」と呼んでいる)
- 跟包 gēn bāo:(俳優などの)付き人(小来は商細蕊の跟包)
- 卖身契 mài shēn qì :身売りの証文(第7話以降、度々つかわれる)
- 堂会 táng huì:個人的に役者を招き演じてもらう会(程鳳台の息子の誕生会や劉漢雲が陳纫香を招いて昆曲を唄わせたのも堂会)
堂会をひらくことができるのは一部のお金持ち。
庶民はチケットを買って観に行っていたようだね。
劇場関連の単語◇一般的なもの
- 票房 piào fáng:興行成績(1話)チケット売り場という意味もある
- 选角儿 xuǎn juér:配役選び(11話)
- 搭戏 dā xì:共演する(18,19,21話など)
- 包银 bāo yín:かつての役者の給料(六哥と林丹秋の会話)
京劇に限らず演劇の世界で使われる単語です。
中国の芸能ニュースでよく見かける搭戏という言葉。広く使われるようになったのは2000年以降のようです。1996年に出された現代漢語詞典修訂本第3版には収録されていません。
包银は民国以前の旧社会の言葉です。
劇場関連の単語◇楽屋編
主に楽屋で使われていた言葉をまとめました。
- 后台 hòu tái:楽屋 役者が演技する舞台は前台という
- 上场 shàng chǎng:(役者が)登場する(登場口は舞台左手)
- 行头 xíngtou: 舞台衣装
- 归置 guī zhì:【口語】整理する 元に戻す(5話の楽屋)
- 腾地方 téng dì fāng:場所を変える 劇場を変える(2、6話)
- 排场 pái chǎng:外観、外見(安王府の劇院や上海梨園会館の構えを排场大と表現)
- 扮相 bàn xiàng:扮装、劇の衣装をまとった姿(~好看 ~俊俏と組み合わせている)
- 卸妆 xiè zhuāng:化粧をおとす 衣装やアクセサリーをとる(小周子が初舞台後に化粧をおとすシーンで)
- 手把壶 shǒu bǎ hú:直飲みする手のひらサイズの急須
ドラマでよく映っていた京劇の楽屋。化粧をする場所や順番などにもルールがあるそうです。
京劇の単語◇観客編
- 戏迷 xì mí:京劇ファン 芝居好きな人
- 喝倒彩 hē dào cǎi:野次る
- 水牌子 shuǐ pái zǐ:水牌は小さな黒板のこと(ドラマでは劇場前におかれた役者名や演目の書かれた看板をさす)
- 红角儿 hóng juér:人気役者(14話 16話)
- 蹭戏听 cèng xì tīng:たちぎぎ(蹭【口語】ただで~する という意味)
- 点戏 diǎn xì:唄う演目を注文すること(安王府の老福晋の誕生日の場面など)
- 戏单子 xì dān zǐ:演目のかかれたプログラム(戏单子を見ながら点戏する)
- 退票 tuì piào:チケットの払い戻し
商細蕊の喝倒彩は意外におじさんの声でビックリ!
蹭戏听は南京で商細蕊が陳纫香と劇場前にいる時に使われた言葉です。蹭戏听の常習犯といえば…老弦児。彼もまた戏迷です^^
京劇の単語◇専門編
より深く知りたい!
新しい言葉を知ることで、私は京劇への興味がUPしました。
京劇用語
- 皮黄 pí huáng:京劇の節回し 西皮と二黄という異なる曲調が合体し京劇の基盤となった
- 大轴 dà zhòu:大轴子ともいう その日の舞台の最後の演目(5話)
- 压轴 yā zhòu:最後から2番目の出し物 ハイライトの演目(21話)
- 折子戏 zhē zǐ xì :全幕のうち一段一折だけ独立して演じる劇 全幕は全本戏
- 戏码 xì mǎ:芝居の出し物(19話 候玉魁の芝居を見たいあまり自分の演目を後にしてもらえ…と商細蕊が無茶をいう場面)
- 开锣 kāi luó: 開演(開演前に銅鑼や太鼓が打ち鳴らされる)
日本では最後の出し物を「トリ」「大トリ」といって一番の目玉にしますが、京劇では最後から2番目なのだそうです。大轴は‶送客戏”と言って軽めのものになり、最後から2番目の压轴が一番の見せ場です。誰が压轴を演じるかで人気と実力がわかるのでしょうね。商細蕊が観客に「次に压轴を任せるから、応援よろしく」と小周子を紹介していました。
日本人作家と京劇の意外なエピソードや「君、花海棠の紅にあらず」の時代から文化大革命の頃の京劇界について多くの記述があり、京劇と中国について理解が深まるおススメの1冊です。
音楽用語
- 灌唱片 guàn chàng piàn:レコードに音楽や音声を吹きこむ
- 调门儿 diào mén :音声や音程の調子や高さ 京劇には高さにより音程の名前が異なる 低い順に凡子调(趴字调)、正宫调、乙子调という
- 气口 qì kǒu:息つぎ(の場所)(商細蕊が小周子に唄い方を教えるシーン)
- 嗓子眼 sǎng zi yǎn:【口語】のど(22話)
- 板子 bǎn zǐ:曲の拍子(候玉魁が武家坡の前に商細蕊と話すシーン)
- 工尺谱 gōng chǐ pǔ:中国古来の民族音楽の楽譜(21話)
工尺谱は日本の伝統楽器の楽譜と同じように縦書きです。日本の音楽のルーツを感じますね。
珍しい言葉
普段つかわない言葉がたくさん出てくる君、花海棠の紅にあらず。
個人的には‶串”に驚きました。こんな意味もあるんですね。
- 打擂台 dǎ lèitái:挑戦を受けて競う 擂台は演武台のこと
- 打对台 dǎ duì tái:役者の興行(公演)の競争
- 串 chuàn:演じる (兪青と十三妹を唄う前の「~别串生了」この‶生”は男役という意味)
- 会串 huì chuàn: 交流出演 (31話 上海梨園との交流のシーン)戏曲〜
- 垫场 diàn chǎng:代役をする (5話 野次をとばす場面)
- 出师 chū shī: デビューすること
- 做功 zuò gōng:芝居のしぐさや所作(做工ともいう)
- 说戏 shuō xì:演技指導をする(21話 小周子に商細蕊が会いに行く場面)
- 对戏duì xì:舞台稽古 リハーサル(19話 候玉魁との会話)
インジョン(尹正)さんは陰でこんなに努力していたんですね
京劇と関わりの深い言葉
言葉が生まれるほど、京劇が中国の人達に愛されていることを感じます。
- 票友 piào yǒu:お金をとらない素人役者
- 名票 míng piào: 票友の中でも名の通った人
- 下海 xià hǎi: 票友がプロになること(兪青のエピソード)
- 跑龙套 pǎo lóng tào:(龙套とは旗持ちの儀仗兵のこと)龙套役で走り回るから転じて、「端役を演じる」という比喩になった
気になって歌舞伎・能から生まれた日本語を調べてみると、こちらも沢山でてきました。
<歌舞伎由来の言葉がいろいろ>https://allabout.co.jp/gm/gc/202951/
<能楽トリビア>https://www.the-noh.com/jp/trivia/153.html
京劇でつかわれている量詞
- 副 fù:嗓子の量詞。‶条”や‶个”があるが‶副”が使われることが多い 量詞を使う場合‶好”などの形容詞をつけて使う(例:一副好嗓子)
- 段 duàn:音楽や劇の一区切りを数える量詞 我给您来一段
- 出 chū:芝居の幕または芝居そのものを数える量詞 听过两出 来一出 搭一出戏 唱完这一出就不再唱了 等々
- 身 shēn:衣裳の量詞 这身衣裳~ 做两身衣裳去 という形で使う
- 首 shǒu:詩や歌を数える量詞 点一首~ 古诗十九首
京劇の世界でつかわれている量詞の中でも‶段”と‶出”はややこしいです!
違いがあるのか?気分で使い分けているのか?謎です。
ドラマの中での使い方を見て、気がついた傾向が2つあります。
- 段は動詞:来と組み合わされることが多い。
- 出は動詞:唄,听,来,搭と組み合わされていた。動詞の幅が段より広い。
量詞:‶段”と‶出”はよく使われていますので、ドラマを見ながらチェックしてみてくださいね^^
らーじゃおが気になった中国語表現
最後に私が気になった表現を紹介して終わりたいと思います。
- 压箱底 yā xiāng dǐ:とっておきの
- 不怎么样 bù zěn me yàng:大したことはない あまりよくない
压箱底
压箱底的戏码:とっておきの演目
趙飛燕の脚本の場面で杜七が使った表現です。姜栄寿が陳纫香に仙人歩法を伝授してやろう…という場面でも使われていますよ。
チェックしてみてね
压箱底は日常会話や作文に使いやすそう!ここぞという時に使ってみたいです。
不怎么样
不怎么样:大したことはない あまりよくない
商細蕊の趙飛燕が圧倒的な支持のもと勝利した14話。姜登宝が新聞をもって父・姜栄寿に「もし自分が女形だったら負けていなかったのに」というと、姜栄寿が一言。
你那生唱得也不怎么样
君、花海棠の紅にあらず 第14話
なんとも悲哀に満ちた乾いた笑い。
尊敬する父を元気づけたかったんだろうな、姜登宝。ちょっとかわいそうに感じます。
不怎么的:大したことはない という表現もありました。
商細蕊が林丹秋を「京劇を辞めないように」と引き留める際に使っています。
「おまえの芸はたしかに大したことはないけれども(上海の)彼らよりはずっと良い」(31話)
不怎么样も不怎么的も気をつけて使わないと、誤解されかねない表現ですね。
商細蕊や姜栄寿の演技がコミカルで「面白い表現だな」と思いましたが、意外に使うのが難しそう。どんな使われ方をしているのか、他のドラマでもチェックしていきたいと思います。
これからもドラマで見つけた気になる中国語・役に立つ表現を発信していきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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